「映像」と「動画」
私は広告映像ディレクターです。
以前はCMディレクターですと言っていたのですが、最近はWEBやイベント映像などの仕事の方が多くなってきたため広告映像ディレクターと名乗っています。
ここ数年、私の業界では制作するコンテンツについて「映像」と「動画」という言葉が何かしらの棲み分けを持って使われています。
「映像」と「動画」はなにが違うのでしょうか?
原理的には同じです。
時間軸上に絵を並べて見せることであたかも絵が動いているかのように感じさせる視覚表現。
映像も動画も、映画もテレビもビデオもアニメもすべてそういう表現形態で、呼び方が違うだけです。
でも「映像」と「動画」という言葉には何か違うニュアンスがありますね。
TikTokを「映像」と呼ぶ人はいませんし、「スター・ウォーズ」を動画と呼ぶ人もいません。
簡単に言ってしまうと、映画館やテレビやNetflixなどで見るお金のかかったコンテンツは「映像」、YouTubeやInstagramやTikTokで見る低予算のコンテンツは「動画」と呼ばれている感じがします。
広告の世界ではTVCMは「映像」ですが、WEBムービーは「映像」か「動画」か曖昧です。
時間あたりの情報量の違いだという説明も見かけますが、じゃあ15秒のTVCMはどっちなのと考えるとこれも曖昧です。
私は現在の「動画」という言葉は、スマホで「映像」を視聴するのが一般的になった人たちに届けるコンテンツを今までと違う名前で呼ぶことにした、マーケティング的な言葉だと考えています。
YouTube以前は「動画」といえばアニメーションのことでした。「動く」「画」だから「動画」。わかりやすいですね。
コンピューター上のデータでは動いている絵は「映像」、止まっている絵は「画像」と呼んでいます。「画像」は分かるのですが「映像」という言葉には「動いている」ということを表現する文字が入っていません。
これは「映画」も同じで、その表現形態の最も大切な属性が名前に入っていないんですよね。「活動写真」という昔々の呼び方が正しい気がします。
そういう意味では実写でも「動画」という呼び方の方が実は特徴を端的に伝えていると言えます。
とはいえ、大正時代から100年以上使われている「映画」、テレビの創成期から60年近く使われている「映像」という言葉には馴染みがあり自然に感じられます。
映像メディアの本場アメリカではどうなのでしょう。
先日「マトリックス・レザレクションズ」を見たら、ネットの動画のことを「Video」と呼んでいました。英語では、ネット上の動く絵はどんなものでもシンプルに「ビデオ」で、「映像」とか「動画」とかの呼び分けはないようです。
映像制作の現場にいる私としてはシンプルな方が楽ですね。この作品は「映像」なのか「動画」なのか?なんて問いはほぼ無意味なので。どちらの名前で呼ばれていても仕事としては、発注を受け、企画を立て、撮影をして、編集をして、完成させて納品するという流れは変わりません。
私は基本的には「映像」で通しています。
しかし、現在の日本では「映像」と「動画」という2つの言葉が曖昧に混在して使われています。しばらくはこの状態は続くでしょう。
これから「映像」あるいは「動画」広告を作ろうと考えている企業のみなさまは、言葉には惑わされず、何を目的にして、誰に向かって、いつどこで、そのコンテンツを発信するのかというところを考えていただければと思います。