ライブラリ映像

私が企画・演出を担当した「Landlog」の映像が先日完成し、YouTubeで公開されています。私のサイトでもご紹介させていただいています。

 

この4分30秒の映像、実は撮影したのはインタビューの部分だけです。あとはCGと、クライアント提供の素材とライブラリ素材で構成しました。

ライブラリ素材というのは、今さら説明の必要もないでしょうが、インターネット上で購入できる著作権フリーの画像・映像のことです。

ネット上には多数の画像・映像ライブラリがあり、例えば「ビジネスマン、日本人」と検索ワードを入れるとアジア人ビジネスマンが働いている写真や動画が表示されて、購入して使用することができます。

有名なところではGetty、Shutter Stock、Adobe Stock、Pixta、Amanaなどでしょうか。

非常に便利ですし、個人で使うにはちょっと高いかもしれませんが仕事で使うには、もしそれをオリジナルで撮影することに比べたらはるかに低価格です。海外の美しい風景の映像や出演者が多いカットなどは、海外ロケをしたり大勢のキャスティングをすることを考えると、ゼロ2つくらい安いかもしれません。

 

2010年と2013年に私が丸紅の企業映像を演出したときは、まだライブラリ映像は質も量もまだまだで、私たちは少数のスタッフで1回目は日本、チリ、アメリカ、UAE、中国、2回目は日本、オーストラリア、アメリカ、ブラジル、オマーンの合計8カ国でロケをして、実際に撮影した映像で作品を作りました。行ってみなければ何が撮れるかわからないとてもスリリングなロケツアーで、あの経験は私にとってその後ための大きな糧になっていると感じています。

それから10年弱で、ライブラリ映像業界はめざましい発展を遂げました。特に海外の風景やビジネスシーンの素材は充実していて、おそらく今あの丸紅の企業映像を作るなら7割くらいはライブラリ映像で編集することになるでしょう。

制作コストは大きく削減されることになります。

 

自然や都市の情景の映像は、正直言ってその場所に住んでいる人が撮影するのが合理的です。遠くからロケ隊が撮影しに行こうとするとスケジュールに制約があり、もし天気が悪かったら狙った絵が撮れないまま帰ることになりまねません。そこに住んでいる人が撮るのなら、天気の良い日に撮れば良いのです。

2000年台の初めの頃、TVCMの仕事で主演のタレントさんがスケジュール的に海外に行けなかったので合成用の背景だけを撮りにオーストラリアに行ったことがありますが、ああいう仕事は今ではもうないでしょう。

ライブラリで適切な映像を探すことができるからです。

そういうある意味無駄な出費が抑えられるのは良いことだと思います。

 

しかし当然、弊害もあります。

 

低コストの著作権フリーのライブラリ映像であらゆる企業が映像を制作しているため、ここ数年モーターショーやIT系のイベントなどで流れる企業のプレゼンテーション映像が、どれも似たような感じになっています。

同じ素材を使っているのだから、素直にやったら同じになります。

本来、自社のオリジナリティを表現するべきプレゼンテーションが似たようなものでOKになっているのは問題だと感じています。

そこは演出と編集の技術でということになり、それは私の専門分野なのでありがたいことなのですが、映像で本当の驚きを見る人に与えるには企画意図を理解し現場に足を踏み込んだ撮影の力が必要だとやはり感じるのです。

 

また、人材の育成という面でも大きな問題があります。

グリーンバックで背景はなんでもデジタル合成できるようになって以来、映像の美術部の仕事は激しく縮小していますが、同じことがライブラリ映像によって撮影部にも起きているだろうと思います。

先ほど背景撮影のための海外ロケについて「無駄な出費」という言葉を使いましたが、人材育成という意味ではそれはまったく無駄ではないのです。

海外に行くことは大きな学びです。

オーストラリアの公園で背景素材撮影をしている時、最初はすごくいい天気だったのに途中から雨が降り始めました。雨が止んでもどんよりと曇っていて狙った光になりません。すると現地のスタッフが「料金はプラスになるけど」と言いながら巨大なトラックから発注していない12kwのHMI(映画撮影っぽいでかいライトです)を出してきました。

頼んでないけどいつも積んでるものだったらしい。トラックから下ろしたら課金。日本にはないシステムです。

このケースにおいてはとても正しいスタンバイでした。

ああいうことを、私ではなく若い撮影部が経験するべきなのです。

ごく一部の予算のある仕事をしているスタッフ以外、細かい工夫ややりくりばかりして、「ああ、本来こうすればいいのか」という当たり前のやり方を経験できていないことは大問題だと思っています。

もちろん、細かい工夫はとても大切ですが。

撮影部は映像制作の中心です。カメラがなければ何も始まりません。その部門の若い人たちが王道のやり方を学ぶことができなければ、日本の映像に未来はありません。

 

私はライブラリ映像を否定しているわけではありません。

むしろ有効に活用していくべきだと考えていますし、実際そうして仕事しています。

ただし、それありきばかりではダメだと思っています。

企画の狙い通りの映像を手に入れるにはどうすればいいか。

ライブラリ映像はそのための手段のひとつであり、撮影しなければ手に入らない映像は撮影するべきなのです。

あらためて9年前の丸紅の映像を見直すと、本当に作品の狙いのために現地で撮影した映像の力を感じます。

 

今後、リモート撮影というやり方も増えてくるでしょう。

医療のリモート手術に比べたら、全然簡単です。

しかし、「現場を知っている」という経験値が私の世代で終わってしまうようなことは、あってはならないと思っています。

 

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